ドラマ「空白を満たしなさい」が2022年6月25日(土)よりNHKにて放送されます。
人間の生死をテーマとし「空白」とは何か「満たす」とはどういうことかを巡って物語が展開します。
今回はドラマ「空白を満たしなさい」のあらすじやキャスト、原作のラストはどうなったのか?についてまとめました。
(トップ画像出典元:https://www.nhk.jp/p/ts/P89L596WL7/)
「空白を満たしなさい」のあらすじとキャスト
「空白を満たしなさい」の主人公•土屋徹生は1歳の時に父親を亡くしていますが、原作者•平野啓一郎さん自身も1歳の時に父親を亡くされています。
「空白を満たしなさい」とは、どんな物語なのでしょうか。
あらすじ
原作と公開されているドラマのあらすじでは始まり方が違います。
原作は
生き返った土屋徹生が病院に診察を受けに来た場面から始まります。
徹生は受付を済ませ名前を呼ばれるまでの時間、
待合室で1歳の時に死んだ父のことを考えていました。
36歳で死んだ父親と同じ歳になったことに気付き愕然としていました。
診察室に入ると「私が寺田です」と名乗った院長は、
3年前”土屋徹生”の遺体を検視した医者でした。
そして妻の千佳から聞いていた通り、
院長は「転落死だった」と徹生に告げました。

【あらすじ】
引用元:https://www.nhk.jp/g/blog/g9l-h7sscwil/
ある夜、土屋徹生(柄本佑)がふと目覚めると、そこは会社の会議室だった。
いつものように家に帰ると、妻の千佳(鈴木杏)が言葉を失いおびえているようで、様子がおかしい。
そこへ1歳だったはずの息子が起きてくるが、どう見ても4歳にはなっている。
やがてひとりの役人が訪ねて来てこう言った――「あなたは亡くなったんです、3年前に」。
テレビやネットには、死んだはずの人間が世界中でよみがえっているというニュースがあふれていた。
だが徹生には死の記憶がない。会社の屋上から転落したというが、事故・自殺、どちらも身に覚えがなく釈然としなかった。
もしや――生前、何かにつけてつきまとって来たあの男・佐伯(阿部サダヲ)に殺されたのではないだろうか?
徹生の会社の警備員をしていた佐伯は、格差と孤独への恨みを徹生にぶつけ、嫌がらせを繰り返していた。
深まる謎を前に、答えを追い求める徹生。だが千佳は何かを隠しているようだ。
徐々に解き明かされていくそれぞれの心の闇。
徹生たちは、もう一度人生をやり直せるのか。
そして、その果てに見いだす真実とは……?
死んだ理由も原因も覚えていない徹生が、最後の記憶から転落するまでの「空白の時間」を思い出していきます。
なぜ死んだのか?原因を突き止め、空白を満たすことはできるのでしょうか?
キャスト

豪華俳優陣が揃っています。
柄本佑(土屋徹生 役)
鈴木杏(徹生の妻:土屋千佳 役)
斉藤拓弥(徹生の息子:土屋璃久 役)
萩原聖人(千佳の職場の社長:秋吉 役)
渡辺いっけい(徹生の元上司:安西部長 役)
うじきつよし(徹生の元職場の工場長:権田 役)
藤森慎吾(復生者:木下 役)
ブレーク・クロフォード(復生者:ラデック 役)
田村たがめ(秋吉の妻:多加子 役)
風吹ジュン(徹生の母:土屋恵子 役)
阿部サダヲ(警備員:佐伯 役)
佐伯役が阿部サダヲなのは意外
原作で登場する佐伯は「汗だくで不潔な大男」を想像させる表現なので、小柄なイメージの阿部サダヲさんが佐伯役なのが意外でした。

外見は違っても、発言や役柄はぴったりな気もするけど
【ネタバレ注意‼︎】原作のラスト


『空白を満たしなさい』とは
存在するはずのない男。
彼のすべてを奪った空白の時間。
再び生きるためにすべきこと、それは──主人公・土屋徹生が、自らの身に起こった
引用元:http://morningmanga.com/lineup/188
「ありえない出来事」を通じて、
「生」と「死」、
そして「幸福とは何か」に向き合う物語
平野啓一郎が「もしも亡くしたはずの大切な人にもう一度会えたら」という着想から執筆したヒューマンサスペンス。
原作のラストはどうなったのでしょうか?
原作ラスト 第11章「空白を満たしなさい」あらすじ
一緒に新しい仕事を始めようとしていた木下と連絡がつかなくなり、ラデックさんが行方不明になったというニュースが流れた。
復生者が消え始めている•••
いつ消滅してしまうかわからない恐怖で何も考えられなくなる徹生。
時間がない‼︎
最後の時は今なのかもしれない。
今日の夕方には、自分はもうこの世界に存在しないかもしれない。
夜、床について目を閉じれば、それっきり朝は迎えられないかもしれない。
千佳は徹生の様子がおかしいことに気づいていた。
なにか怯えている様子だと気づいたとき、【全国で行方不明の復生者多数】というニュースの見出しを目にする。
「てっちゃんもいなくなるの?」
「ごめん。これからはずっと側にいるっていう約束、守れないかもしれない。」
「とにかくやるべきことをやるしかない。時間、あんまりなさそうだから。」
千佳は毎晩、なにか少しでも異変があれば必ず目が醒めるようにと徹生の手を握って寝た。
ある夜、寝る時間になってもテレビを見続ける璃久。テレビを消すとグズって千佳の腕を叩いた。
徹生は「お母さんをたたいちゃダメだろ?」と声を掛けても、千佳を叩き続ける璃久にとうとう大声を出してしまう。
「どうしてもたたきたいならおとうさんのかおをたたきなさい。
おれはりくにたたかれたこと、わすれないからな。おまえもいっしょう、わすれるなよ。」
璃久は徹生を叩こうとせず、千佳に謝りもしなかった。
そのまま30分間、目を擦りながら立ったまま泣いている璃久を、徹生は胡座を掻いて見つめた。
璃久が千佳に連れられ居間を出た後、
明日の朝、目が覚めて父親がいなくなっていたら、父親の思い出は怖い顔ばかり浮かぶのではないかと考えていた。
「いつか璃久も、真相を知りたくなる時がくると思う。
その日のために、俺は、自分の言葉で璃久に説明したいんだ。」
徹生は復生してからのこと、自殺の話だけでなく、子供の頃の思い出、就職活動での苦労、千佳との馴れ初め、結婚、璃久の出産、子育て、覚えている限りの事をヴィデオに残した。
徹生の母を交えて4人でピクニックに出かけたが、璃久とはまだ仲直りが出来ていなかった。
璃久が水鳥の餌を撒いていると鳥達が首を伸ばして近づいてきたのに驚いて飛び退く。
徹生は我慢できなくなって「りく!」と大きな声で呼びかけた。
璃久は満面の笑みでこちらに駆け寄ってくる。あの日の会社の屋上のように。
世界が一斉に、目も開けていられないほどに眩しく輝いてゆく。
璃久が駆け寄ってくる。抱きしめるまでは、あともう少しだった。
徹生は消えてしまったと思わせる終わり方です。残された千佳と璃久、徹生の母親はどんな気持ちになったのか考えてしまいます。



ただただ、幸せになってほしい
原作者・平野啓一郎のプロフィールと受賞歴


1975年6月22日、愛知県蒲郡市生まれ。
父の死後、母の実家北九州市で育つ。
京都大学法学部卒。
文学とアートはもちろん、音楽やファッションにも深い知識を持ち精通している。
[受賞歴]
引用元:https://k-hirano.com/profile
『日蝕』(1999年芥川龍之介賞)
『決壊』(2009年芸術選奨文部大臣新人賞受賞)
『ドーン』(2009年Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『マチネの終わりに』(2017年渡辺淳一文学賞)『ある男』(2018年読売文学賞)
平野啓一郎が提唱している分人主義


「享年36歳の父と同い年になったら”生きる”ということを正面から扱った作品を書きたい」と小説家になった時から考えていたという原作者の平野啓一郎さん。
原作「空白を満たしなさい」ではゴッホの自画像と分人主義がキーポイントとなっています。
どのゴッホが本物のゴッホ?
自殺対策のNPO法人<ふろっぐ>には、ゴッホの自画像の絵葉書が十数枚貼られています。NPO法人の池端はその絵葉書を見つめる徹生に「どれが本物のゴッホだと思います?」と問いかけます。
原作中の表現を元に徹生が見ていたゴッホの自画像を調べてみました。


青い服を着て短髪を逆立たせたゴッホ


”耳削ぎ事件”のあとに描かれた「パイプを銜えた包帯の自画像」


灰色のフェルト帽を被った
謹直な紳士風のゴッホ


蒼いインクで刷ったあとの
木版画のようなゴッホ


暗い水の底からゆっくりと
浮かび上がってきた
水死体のようなゴッホ


顔の表情をうっかりとどこかに置き忘れてきたかのような
頭を丸めたゴッホ
池端の答えは「全部ゴッホです。ゴッホが描いたゴッホ自身です。」
人間はみんな、つきあう人の数だけ幾つも顔を持っている
一個人の中にいろんな顔があるが、それは使い分けてるのでも演じているのでもない自然と生じた自分。
このいろんなゴッホが、ゴッホの”分人”です。
どのゴッホがどのゴッホを殺したのか?


文庫版上下巻はそれぞれ違うゴッホの自画像が表紙となっています。
自殺をしたとされているゴッホ。「自分自身を消してしまったゴッホは一体どのゴッホなのか」というのが、この本の重要なモチーフです。
徹生が見るゴッホの自画像
- 「麦わら帽子の自画像」のゴッホは、おとなしそうにも怯えているようにも見える。
- 「パイプを銜えた包帯の自画像」の自ら耳を削ぎ落としたゴッホは、病んでいるはずだけど他のゴッホと比べるとやさしい目をしている。
おとなしそうなゴッホが病んでるゴッホを消そうとしたのか、病んでるゴッホがおとなしそうなゴッホを攻撃をしたのか。
徹生はおとなしそうなゴッホが病んでるゴッホを消したのではないかと答えました。
分人主義とは?


「分人主義」というのは平野啓一郎さんが小学生の頃、「相手によって態度を変える」と担任の先生から指摘されたことに違和感を抱き、自分探しをする過程の中で行き着いた概念だそうです。
平野さんの著書『私とは何か「 個人」から「分人」へ』で、人間にはいくつもの顔があるということを肯定的に考えようと提案されています。
個人とは本来「分けられないもの」であり、それに対して分人が生まれました。
他者との相互作用によって作られるいくつものキャラクターのことを分人と言います。
「自分の分人は相手が作ったもの」「相手の分人は自分が作ったもの」であり、
大切な人との別れは「その人との分人が生きられない」、つまり自分が欠けるということになります。
原作ファンの感想
死者の蘇生。そこで展開された「分人」という考え方。面白かったが、分人同士が繋がったり対立したり、という想像はできなくて、その先をどう考えたらいいのか途方に暮れた。佐伯が登場するたびに気分が悪くなるほどで、反論しにくいので更に嫌悪感が増して何度も途中で本を置いてしまった。が、収穫。いずれまた再読したい。
引用元:https://bookmeter.com/books/5513547
平野啓一郎3冊目。 愛と死に関する物語。 やはり人生は一度きりであるべきと再確認させられた。神様はすごいし、平野氏の文書は美しい。 死生観について考えさせられ、感動した良い本。
引用元:https://bookmeter.com/books/5513547
主人公の「空白」を満たす為に、必死にもがいて答えを見つけ出そうとする物語。昨年亡くなられた俳優さんを思い出す。とても悲しかったけどこの本を読んで少し救われた。
引用元:https://bookmeter.com/books/5513547



著名人の自殺は、本当にショックですよね
「生」と「死」について考えさせられ、心動かされた方が多いように思います。
まとめ
「空白を満たしなさい」のあらすじやキャスト、原作のラストと分人主義についてまとめました。
平野啓一郎さんの「分人主義」はとても興味深いものでしたが、「死」が身近な人に与える影響は大きいと感じました。
特に理由の分からない自殺は残された人に傷と責任を負わせます。
分人主義を知ることで、救われたり救えたりする命があるのではないでしょうか。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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