2022年4月から高校の家庭科に金融教育が追加されます。
クラスメイトと一緒に料理を作ったり、四苦八苦しながらミシンを使ったりと楽しい思い出も多かった家庭科の授業に金融教育が加わるとは、なんだか授業の雰囲気も大きく様変わりしそうですね。
いったいなぜ今回学習指導要領が改訂されたのでしょうか。
今回は日本におけるお金のあり方について、過去と現在を比較しながら改訂に至った経緯を解説していきます。
(アイキャッチ画像出典元https://pixabay.com/ja/photos/%e6%95%99%e5%b8%ab%e3%81%af-%e3%82%ad%e3%83%83%e3%83%81%e3%83%a5-%e3%83%a6%e3%83%bc%e3%83%a2%e3%82%a2-3917155/)
金融教育、その具体的な内容
金融教育といっても少し抽象的すぎるので、初めに今回の改訂の主な変更点についてご紹介しますね。
学習指導要領によると2022年4月より家庭科の授業には主に以下の項目が金融教育の一貫として追加されます。
・預貯金や民間保険、株式、債券、投資信託等の基本的な金融商品の特徴
・将来のライフスタイルを見据えた資産形成
・投資家目線で金融商品のメリット・デメリット

保険や株式、将来の資産形成。言葉だけ聞くと高校生が学ぶには少し早すぎないか疑問が沸いてきますね。
筆者は政治経済の授業で金融ビジネスの仕組みを少し学んだ覚えがありますが、当時興味がなかったこともあり、とにかく苦痛な時間として記憶に残っています。テスト勉強も単語を丸暗記して挑んだためビジネスの仕組みを理解するまでには至りませんでした。
また高校生が将来のライフスタイルについて考えることは現実的なのでしょうか。筆者は恥ずかしながら高校生時代、一部では人生の夏休みとも呼ばれる憧れの大学生活のことで頭が一杯でその先の将来なんて考えたことはほぼありませんでした。
当時を振り返りながら今回の改定について考えると、改定の理由についてますます疑問が深まってきますね。未成年の高校生に金融教育を推奨するメリットは本当にあるのでしょうか。
今と昔を比較してみる
具体的なメリットを考える前に、まずは日本のお金の在り方が家庭科の授業にどういった影響を与えたのか、過去と現在・将来を比較していきたいと思います。
「お金」=「貯めるもの」という考え方
皆さんは投資や資産形成と聞いてイメージするものはありますか。またどう感じるでしょうか。
筆者は、投資は知識がある一部の人がするもの。自分の資産は節約しながらコツコツ銀行に貯めるもの。という認識を当たり前のように持っていました。
事実、日本の家計構成比の半分以上は現金預金が占め、投資信託・株式はわずか約15%と筆者のように多くの人がお金は増やすものではなく貯めるものと考えていることがわかります。
ちなみにアメリカの現金預金は家計構成比でまさかの13.3%。反対に投資信託や株式が構成比の半分以上を占めており、日本とは真逆の結果です。さすが慎重派な日本、失敗を恐れないアメリカと言ったところでしょうか。
それにしても同じ21世紀でここまで数字に差があると、理由が気になってきますね。
預金文化が日本で定着した2つの歴史的要因
1.バブル崩壊
多くの日本人が投資よりも現金預金を好むようになった理由は大きく2つ、バブル期とリーマンショックではないかと言われています。
1986年から始まったバブル景気。ディスコや高級車、商品券の束やボディコンやコンサバなどの80年代ファッション。バブルを経験していない世代も当時がどれだけ景気がよかったのか想像するのは大変簡単かと思います。
ちなみに当時の預金利息は約6%だったそうです。現在のメガバンクの預金利息は約0.002%程度なので当時の景気がいかに良かったかがわかりますね。ですがその不動産価格、株価は暴落し、それにともないバブルは崩壊。日本は大不況にさらされてしまうことに。
2.リーマンショック
2008年に発生したリーマンショックで倒産・失業そして就職氷河期を経験した人々は、投資は不安定でリスクを伴うので危険。損益がでない現金預金で自分の資産を守り残したほうがいいという考えを強く抱くようになりました。
天国から地獄へ落ちるかのような大転落。当時を経験した人々にとってトラウマ級の出来事であったことは容易に想像がつくのではないかと思います。
このように時代を振り返って見ると、当時を経験していない若い世代にまで投資は危険、お金は貯めるものという考え方が受け継がれ、現金預金が家計構成比の半分を占めていることも頷けますよね。

節約術を学ぶ家庭科
このようなお金についての考え方は、家庭科の授業にも大きく反映されているように筆者は思います。
例えば、料理や洗濯など家事全般については、無駄使いしない方法や節約する方法を学ぶ授業展開となっていたように思います。もちろん環境面などほかの理由もあるでしょうが、これまでお話してきたお金のあり方が授業に反映された結果ではないでしょうか。
無駄使いを減らしたり節約することは使うお金を減らすということを意味します。今後授業に追加される金融教育、特に投資はお金を運用し増やす術学んでいくはずなので、お金の在り方はもとより、指導方法や学ぶ姿勢まで大きく変わるだろうということが予測できますね。
スポンサードリンク変わりゆくお金の在り方
ここからは現在そしてこれからのお金の在り方を見ていきましょう。
広がる可能性と増える責任
SNSの普及もあり世代関わらずあらゆる情報が簡単に手に入るようになった現在、世界には驚くほどたくさんのライフスタイルが存在していることが日本社会にも浸透してきました。
社会人留学やノマド生活、起業やフリーランスなど、ごく一部の限られた人しかできないと考えられていた生活をしている人が想像よりはるかに多くいることに驚いているのは、筆者だけではないはずです。
大学を4年間で卒業し、就職、結婚そしてマイホームとマイカーの購入、新卒から勤めあげた会社で定年退職。これが大人と聞かされ、あたりまえと思われていた定義が今音を立てて崩れていっているように感じます。
みんなと同じでなくてもいい、自分にあったライフスタイルを選べる世の中。この世界に飛び込むために必要な知識は、現在の義務教育の中で学ぶことができるのでしょうか。
ライフスタイルの多様化というと例えば、キャリアアップ・チェンジのための転職や進学・留学、また独立してフリーランスへ転向や起業など文字通りあらゆる可能性があります。
またFIREと呼ばれる資産運用をして生計を立てて早期リタイアを目指すライフスタイルも若い世代を中心に脚光を浴びています。
こういった新しいライフスタイルを選択する上で忘れてはならないことが、
年金や税金対策、保険の加入状況の見直しなど、今まで会社が代わりにやってくれていたことを、会社に頼らず責任をもって自分自身で対応していかなくてはならないということです。
未来では将来の可能性が広がる分、それに比例して多くの責任が待ち受けていそうですね。
新しい価値観にあった新しい家庭科
このように過去と現在・未来を比較すると、お金の在り方だけでなく、ライフスタイル自体が大きく変わってきており、バブル崩壊やリーマンショック当時のような考え方は現在の価値観にそぐわなくなってきていることがわかりました。
また、いくら自分に見合ったライフスタイルを選んだとしても、キャリアを築きながら税金対策や資産形成をゼロから始めることはなかなかハードなことだと思います。
今回の学習指導要領の改訂は、そんな多種多様なライフスタイルを将来選んでいくであろう高校生に、最低限の社会の仕組みそして将来の準備の仕方を事前に学んでもらうための貴重な機会になると言えそうです。

おまけ 金融庁の取り組み
金融庁は教育指導の大幅変更に向けて、全面的にサポートする準備をしているそうです。
サポート内容は大きく分けて2つ
・出張授業やWeb上でコンテンツ配信
・家庭科の先生を対象とした研修活動
前者の出張授業は金融庁・日銀の職員の方が実際に学校へ出向き授業を行ったり、Web上に相談窓口を設置したり子供たち向けのコンテンツを配信をしたりするそうです。Web配信は「知るぽると」というWebサイトですでに閲覧が可能だそうです。
後者は家庭科の先生たちへの研修活動として具体的に、つみたてNISAやiDeCoといった投資信託の特徴から投資の効果についても理解を深めてもらう内容になっているそう。また授業の質向上だけでなく、実際に先生たちの資産運用の促進の手助けになればという思いも含まれているんだとか。
金融庁の取り組みは実際に授業を受ける高校生と先生だけでなく、もっと若い世代や親世代といったあらゆる世代に向けてアプローチを試みているように感じます。金融のスペシャリストが実際に授業を行ったり、コンテンツを配信してくれるため、情報の信憑性は大変高いですし、今後のサポート体制にも大いに期待ができそうです。

まとめ
高校の家庭科の授業に金融教育が追加される今回の学習指導要領の改訂。一見突然で不安や疑問を感じますが、時代の中で移り行く価値観の変化を考えると、世の中にあったベストな改訂だということがわかりました。
多様性が認められ、さらに年齢の縛りがなくなりつつある世の中だからこそ、未来を担う高校生には社会に出る前にぜひともこの機会を最大限に活用してもらいたいですね。
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